研究概要 |
固体表面にあらさや不均質などの異方性が存在すると,液体が固体面上を前進してぬらしていくときに現われる前進接触角が,後退して乾かすときの後退接触角と異なる履歴現象が観察される.接触角履歴の大きさは,微視的な異方性が顕著なほど大きくなる.この性質を利用して,自己組織化膜(SAMs)表面のnmレベルの欠陥検出を行う方法について検討を行った.浸漬法により,浸漬時間を変化させて数種類のSAMs試料板を作成した.浸漬時間5分の均質な標準膜に比べ,浸漬時間2〜4分の膜では表面に数nm程度の欠陥が観測され,長時間膜では部分的に多層膜構造をとる不均質部分が認められた.研究代表者が提案した二次元メニスカスの離脱を利用する方法を用い,BCAおよびエチレングリコールに対する接触角を詳細に測定したところ,欠陥の度合いに比例して,接触角履歴が大きくなることを示した. 実際の品質管理において,接触角を迅速かつ精度よく測定するのは困難な場合が多い.接触角よりも計測が容易な傾斜平板上の液滴の転落角度から膜質評価を行う方法について検討した.液滴が転落する臨界角度について,実験結果を精度よく予測する理論モデルは未だ提案されていない.固液のぬれ挙動および液滴に作用する重力と表面張力の釣り合いの条件から,転落角度が液滴の最大幅から見積もられることを示した.水平平板上に設置した液滴の幅は平板を傾けても変化しないことに着目し,軸対称液滴形状の数値計算結果から液滴幅を算出し,転落角度を求める方法を提案した.SAMs試料板に対する体積1μlの液滴の転落角度の測定値は,考察した理論値と非常によく一致した.転落角度の測定を利用して,膜質評価を行う簡便な手法が可能であることを示した.
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