研究概要 |
本研究の目的は、プール沸騰の限界熱流束を大幅に向上させる有効な方法を検討することである。具体的には、簡便で受動的な方法でありながら限界熱流束の向上が期待できる、作動流体にpositive混合液を用いたマランゴニ効果による促進法に注目し、伝熱面近傍の気液微細構造の詳細な測定を通して限界熱流束の促進機構を明らかにすることが目的である。本年度は,実験装置の製作と,高精度触針法を用いた伝熱面近傍の気液挙動の測定を行った. 沸騰容器は内径150mmの耐熱ガラス製であり,沸騰容器底部には直径12mmの銅製上向き伝熱面が設置されている.伝熱面中央には垂直方向に0.5μmの精度で移動可能な触針プローブが設置されている.プローブの先端径は5μm以下である.作動流体としては,代表的なpositive混合液である2-プロパノール水溶液を用いた.実験は大気圧(100kPa)から0.05気圧(5kPa)の範囲で行なった. 2-プロパノール水溶液の限界熱流束は,5kPaから大気圧のいずれの圧力でも水に比べて1.7倍から2倍促進され,positive混合液を用いた限界熱流束促進法の工学的有用性が確認された.大気圧近傍での触針プローブによる測定の結果,水,2-プロパノール水溶液とも伝熱面を覆う合体泡下に液層の存在が確認された.ただし,液層厚さには非常に大きな差があり,水は従来の測定値と同程度であったが,2-プロパノール水溶液では数mmにも及ぶ液層領域の存在が明らかとなった.低圧(10kPa)の測定では,水では巨大な一次気泡が形成されその下に10μm程度の薄液膜の存在が確認された.一方,2-プロパノール水溶液での液層厚さは50〜100μmであり,大気圧近傍と同様に水とは大きな差異が認められた.これらの気液挙動の違いが,2-プロパノール水溶液の限界熱流束を促進させていると考えられる.
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