ナノスケールの熱流体を用いてバルクの流体にはない特性をもたせた系を、ここでは「ナノ熱流体システム」と呼ぶ。リソグラフィーなどファブリケーション技術を用いて製作した固体のナノ構造(チャネル、平板間の隙間など)に流体を静止状態あるいは流動状態で満たしたものや、例えば生体細胞のように膜で包まれて構造を保つものなど、様々なシステムが考えられる。このようなナノ熱流体システムを用いて熱・運動量・物質の新たな輸送機能を作り出し、革新的な熱流体デバイス(機械)を創成しようとの全体構想の下、基礎研究としてナノ熱流体システムの鍵となる固液界面や液膜・流動性分子膜における熱・物質移動の特性を明らかにするのが、本研究課題の目的である。本年度は、白金固体壁に接する水または単純液体の液膜についての解析をまとめた。液膜内及び界面を通過する熱エネルギー輸送の特性について、分子間相互作用のパラメータ、固体分子の配列(結晶面)・格子定数、固体壁の表面状態(原子レベルの凹凸や配列の乱れ)など支配因子の影響を整理した。また、分子の配向や分子内運動自由度の影響が顕著な高分子液体の解析を開始した。さらに、水中にリン脂質が形成する二重膜(生体細胞膜のモデル)について、大規模分子動力学解析により、水-リン脂質-リン脂質-水の系における総括的熱伝導率や、それぞれの界面が示す熱抵抗を計測した。
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