研究概要 |
医療技術やバイオテクノロジーの発達に伴って生体細胞・組織を凍結保存する技術の確立が求められている。凍結保存は低温化と活性水分の低減により生化学反応の抑制を図るものであるが,凍結の過程で細胞内外に氷晶が形成され,それが各種の機械的損傷や膠質的損傷を発生させる要因となる。このような凍結損傷を完全に回避するためには,細胞内の水が結晶化せず,液体構造がそのまま固定化されるガラス化現象を発現させるのが理想的である。 そこで本研究では,超音波を付与することにより凍結過程における核生成の能動的制御を追究した。すなわち,超音波の付与により,超音波キャビテーションによる衝撃波を発生させ,それにより水素結合で凝集している水分子のクラスターを解離させ,過冷却の促進を図り,最終目標としてガラス化を目指すものである。具体的には,生体模擬組織として寒天ゲルを供試した凍結実験を行い,過冷却度および氷晶の生成状態を超音波出力および冷却速度と関連づけて実験的に追究し,以下の結果を得た。 (1)本装置では超音波照射による過冷却の促進効果は認められなかった。冷却速度が小さすぎること,超音波の周波数が低いこと,および超音波出力が不足していることなどが原因と考えられる。今後,装置系について見直しが必要である。(2)組織体表層部において超音波照射による氷晶の微細化の効果が認められた。また,音響流に基づく氷晶の微細化の効果は小さく,氷結晶の微細化は主に超音波キャビテーションの効果であることが示された。(3)冷却熱流束に対して超音波出力が過大になると,音波吸収による発熱作用が顕在化し,逆に氷結晶の肥大化を招くことが判った。(4)この対策として,超音波の間欠照射方式を提案し,その有効性が検証された。
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