今回の研究において、鉛直面を流下する液膜流の摩擦抗力係数C_fを測定し、乱流遷移が液膜厚さを代表長さとするレイノルズ数Reが200〜800の領域で乱流遷移が生ずることを見出した。C_fは、Reが200以下の層流域で1/Reに比例して減少した後、Re=200〜800の領域で上昇し乱流域の下降直線に漸近する挙動を示した。このC_fの変化は、平板に沿う単相流の境界層におけるC_fの変化と類似している。壁面摩擦抗力は液膜の重力との釣り合いから求め、表面波の速度を代表速度としてC_fを算出した。 低Re域で表面波はRoll waveの構造をとるが、Re【approximately equal】200でRoll wave内にケルビン・ヘルムホルツ不安定によるとみられる渦が発生するのを、光学的手法を用いて観察した。Reの増大とともに渦が多数発生してRoll wave内に広がり、Re【approximately equal】800では鏃の形状をした液塊となり、その中に多数の乱流渦を内包するようになる。 数値計算によるシミュレーションでは、これまで80程度の低いReまでしか成功していないが、その結果によればRoll waveの前縁の深い谷部から急傾斜面の前縁部にかけて液膜内に強い剪断流が発生する。その変曲点を有する速度分布の剪断層は不安定化しやすくなる。この計算結果から高Reではより強い剪断層が発生するものと推定し、実験で観察された渦の生成はケルビン・ヘルムホルツ不安定によるものとした。 以上、今回の研究で新たに明らかになった知見は、平板に沿う単相流の境界層など、自由表面の無い剪断層とは異なる乱流遷移の過程であり、波の表面形状を非接触で正確に測定可能なレーザービーム屈折法の開発を近いうちに完成させて、その機構や乱流構造の解明を進める計画である。
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