研究概要 |
近年報告されている音響非線形性と呼ばれる性質を用い,物体内部の微小な亀裂や剥離の推定を行うための基礎的実験とデータ解析を行った. 1.実験 実験対象は,2枚のアクリル板をエポキシ系樹脂で貼り合わせたものを用いた.ただし,エポキシ系樹脂を塗布した後,貼り合わせるまでの乾燥時間を変化させた.貼り合わせるまでの乾燥時間は,およそ5,10,15,20分の4種類とした. 乾燥後,2枚のアクリル板を貼り合わせ,乾燥させた側のアクリル板に超音波探触子をあて,超音波の発振ならびに反射波の受信を行った.超音波の振動数は,5,10,20Hzの3種類を用いた.また,5,10Hzの探触子は,パルス的な波形(該当周波数付近の周波数帯域が広い)を発振するものと,振動的な波形(該当周波数付近の周波数帯域が狭い)を発振するものの2種類を用いた.発振波および反射波のデータを測定した. 2.データ解析 測定データにウェーブレット変換等を実行してデータ解析を行った.乾燥時間が長いほど接着部分が強固でない(剥離に近い状態)ので,反射波が強いエネルギーを持っ傾向にあることがわかった.また,接着部分が一様でない(接着の強弱部分が混在する)と,高調波成分が検出される傾向にあることがわかった.これにより,接着状態の定性的な評価が可能であることがわかった. 高振動数の超音波ほど,また,パルス的な波形ほど,発振波と反射波の分離が容易であるため,解析の対象を絞りやすいが,時間分解能に劣るためデータ解析の精度に問題があることがわかった.一方,振動的な波形では,一部発振波と反射波干渉する部分があるが,データ解析の精度としては高く,高調波成分(非線形性)をより確認しやすいことがわかった.
|