不明瞭な亀裂やわずかな剥離など、これまでの技術では捉えることが困難であった異常性を検出する方法として、音響非線形性あるいは非線形超音波と呼ばれる性質が近年報告されている。ただし、特殊な高電圧の連続パルス超音波が必要であり、検出される分数調波成分などの非線形性は、超音波の時間波形から判別できる程度のものである。本研究では、超音波診断における音響非線形性の汎用化と高精度化を目標に、汎用的な低電圧の単一パルス超音波を対象として、ウェーブレット変換を利用した音響非線形性の精度の高い検出手法を提案した。 まず、信号平面を改良したハーモニックウェーブレット変換を超音波波形へ適用した。実験対象として接着条件の異なるアクリル板を用いたが、接着条件の違いの判別は困難であった。その原因は超音波の電圧不足にあり、低電圧の超音波では、分数調波成分などとして捉えられる通常の音響非線形性の発生には不十分であった。 これに対し、低電圧の超音波では、接着面の違いを示唆する情報は超音波の基本振動数付近の微妙な変化であると推測し、これを捉える方法として、新たに区分ハーモニックウェーブレットによる連続ウェーブレット変換を提案した。これにより、アクリル間の接着層を通過する超音波の振動数の変化が接着条件によって異なることを見出し、この現象を便宜的に超音波変調と呼んだ。超音波変調の程度の相違によって接着条件の違いを捉えることができた。超音波変調も音響非線形性の一種の形態であると考えられる。すなわち、広く用いられる低電圧の単一パルスの超音波においても、分数調波成分などの非線形性でなく、超音波変調を検出することによって、物体内部の微小な異常を検出できることを示した。
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