研究概要 |
イルカの高い運動性能と推進性能を発揮するのに尾びれが重要な働きをしていると考えられることから,尾びれに注目し,尾びれの機能を運動学的流体力学的に明らかにし,工学的な応用をする際のイルカの尾びれを模倣した人工尾びれの有益性を検討することを本研究の目的としている。先ず,イルカの尾びれの曲げ剛性を計測するための装置の設計及び製作を行った。3次元移動テーブル上に水平に尾柄を固定した尾びれ上の任意の点にロードセルを取り付けた荷重負荷器により荷重を加え,その点における曲げによるたわみをレーザ変位計を用いて非接触に計測する装置である。本装置を用いて,実際に沖縄美ろ海水族館にいる尾びれのほとんどを失った障碍イルカに装着し使用されていた人工尾びれと死亡したイルカの生の尾びれの曲げ剛性とヤング率などを求め,力学的特性について比較検討した。また尾びれの解剖と超音波診断装置を用いた解析画像より尾びれの構造を調べ,尾びれの表皮,脂質また結合組織など生体材料の力学的特性を調べた。実験の結果,曲げ剛性は尾びれの翼端に近付くに従い小さくなり,結合組織は異方性をもつことがわかった。次に,尾びれの力学的特性に近似した特性をもち,形状を模倣した実験用人工尾びれを試作し,振動翼推進機搭載船外機(ヒレ船外機)に装着し,人工尾びれの推進機としての推進性能について調べた。その結果,人工尾びれは一周期にわたり正の推進力を発生し,推力の変動が小さく,平均推進力は,尾びれを振らす振動数が増加するに従ってはぼ2次的に増加することがわかった。人工尾びれを装着したヒレ船外機を小型ボートに搭載し,湖上での実船実験を行ったところ,船速は尾びれの振動数にほぼ比例して増加した。以上より,イルカの人工尾びれの推進性能は高く,水をかき回さないので環境によい水中推進機として,人工尾びれの有益性を評価することができた。
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