研究概要 |
四肢の関節トルクの計測手法とそれによる計測結果が独立行政法人製品評価技術基盤機構生活・福祉技術センターからデータベースとして公開され,身体寸法や関節可動域といった形態に関する評価から,力やトルクに関する評価が行われるようになったことで,これらを利用する分野の大きな進展が期待される.しかし,二関節筋の存在によって関節が独立ではないことが明らかであるにもかかわらず,四肢の関節トルクの計測手法で計測される関節トルクは,それぞれの関節が独立であることが前提であり,ここに大きな矛盾を生じる.本研究では理論的背景の下にヒト四肢の筋骨格系を単純化したモデルを構築し,それによってヒトの四肢を表現することで,二関節筋の作用によって関節は独立ではなく相互に影響を及ぼすという前提の下で筋力と力出力の関係を導き出すことを可能とした.さらに,機能別実効筋力と力出力の関係により得られる力出力分布と,データベースとして公開されている四肢の関節トルクの計測手法より得られる力出力分布との差異を明確にすることを目的として,それぞれの計測手法によって得られる結果を詳細に比較・検討した.本研究は,関節トルクの計測手法を否定するものではない.この手法により計測された関節トルクは,関節それぞれに着目した場合の関節トルクであり,二関節筋による関節間の相互作用は考慮されていないために,これまでの多関節系の力学を適用して,ここから力出力を求めることは誤りであることを明確にした上で,ヒトの力出力を論じる,あるいは製品設計などを行う必要があることを強く示唆するものである.
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