狭ギャップ化合物半導体の分子線エピタキシーによる格子不整結晶成長を行い、欠陥の挙動などについて検討を行った結果、以下の基礎的知見を得た。(1)GaAs(001)上に成長したIn(Ga)Sbにおいては、貫通転位が残留ドナーの起源となり電子輸送特性を制限している。対消滅機構に基づく貫通転位密度低減のため、ヘテロ界面からの距離が増すにつれ、局所的残留ドナー密度は低く、局所的電子移動度は高くなる。(2)GaAs(001)上に成長したInGaSbチャネルとInAlSb障壁からなるヘテロ構造においては、数マイクロメートル程度の厚いInAlSbバッファ層を採用することで、lnGaSbチャネル中の貫通転位を低減し、高移動度の二次元電子ガスが形成できる。(3)上記二次元電子ガスでは、異方的積層欠陥の影響は見られず、移動度に異方性はない。(4)上記二次元電子ガスでは、零磁場スピン分離と有限磁場におけるスピン分離消失が観測される。(5)格子不整成長における組成傾斜法には、貫通転位密度低減に有効な場合とそうではない場合がある。GaAs(001)上のInAs成長における組成傾斜法では、対消滅機構による貫通転位密度低減以上の積極的な効果はない。得られた実験事実は、固溶硬化による貫通転位可動性の低減で説明できる。(6)狭ギャップ化合物半導体中においては、高密度の貫通転位が不純物拡散を促進するとは限らず、貫通転位が拡散に与える影響が無視できる程度となる場合がある。
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