本年度計画した下記の二項目について述べる。 1.高分解能・電子線起電流法の開発 シリコンカーバイド(SiC)中の結晶欠陥の非破壊解析は電子線起電流(EBIC)装置が増設されている走査型電子線顕微鏡(SEM)を用いて行った。目標は1μmより細かな結晶欠陥を識別できる分解能をEBIC法で得ることである。高分解能に向けて、電子線の加速電圧とEBIC信号を収集する電極金属を検討した。 高分解能EBIC像を得るために、20kV以下の加速電圧を検討した。10kVのEBIC像で特に結晶欠陥(黒点)が明瞭になった。5kVまで下げるとEBIC像は不鮮明になり、3kVで判別できない像になった。加速電圧10kVにおけるEBIC像では0.5μm間隔を開けて並んでいる結晶欠陥を判別でき、目標の1μm以下を達成した。 電子線の侵入長(深さ)は電極材料の密度に反比例するので、これまで使っていたニッケル(8.9g/cm^3)より密度が低いチタン(4.5g/cm^3)をEBIC信号収集電極金属に用いた。Ti電極でもNiと同様に結晶欠陥を観察でき、電極材料の密度依存性は見られなかった。 2.SiCのエッチングと成長 陽極化成を使った方法ではエッチング形状が不鮮明であり、結晶欠陥が明瞭に現れなかったことが判明した。そこで結晶欠陥がより鮮明に現れる熱エッチング法をあわせて行った。 熱エッチングは塩素と酸素ガスを用いた。950℃のとき、エッチング速度は4H-SiC Si面で約0.5μm/h、 C面で40μm/hであった。Si面ではエッチピットが鮮明に現れ、C面ではヒロックが形成された。熱エッチングでSiCを削れることは古くから知られていたが、エッチピットやヒロックが形成されることが判明したのは本研究が世界で初めてである。 エッチングした表面に化学的気相堆積(CVD)法を用いてSiCをエピタキシャル成長した。成長前後の結晶欠陥をEBIC解析した結果、基底面転位は貫通転位に転換されていることが判明した。基底面転位を低減できたので、SiC素子特性の信頼性が大幅に改善できると考えられる。
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