超伝導体の臨界電流密度は、超伝導体内部の数十ナノメートルの間隔の磁束線格子とピンニングセンターとの相互作用により決定される。本研究では、微細加工技術を用いて溝型の非対称な人工ピンニングセンター(人工ピン)を超伝導膜に導入し、その特性と素子への応用に関する検討を行った。その結果、以下の結論を得た。 1.傾斜状やステップ状の非対称人工ピンのピン止め特性について計算機を用いてシミュレーションを行い、ピン止め特性に非対称性が生じる可能性を示し、形状にピン止め特性の特徴を明らかにした。 2.欠陥が非常に少ない超伝導ニオブ膜を、電子ビーム蒸着装置を使用してサファイア基板上に作製した。また、その超伝導膜の特性を高感度の磁化測定装置を使用して評価し、実験に用いることができることを確認した。 3.非対称な人工ピンを導入するマスクパターンを設計し、加工周期が4〜6μmの範囲で超伝導Nb膜(1mm×1mm×0.5μm)にステップ状の非対称人工ピンを導入した。 4.臨界電流密度の非対称性を検証するために、磁気光学イメージング法を用いて超伝導膜の磁束分布を観察し、磁束分布に非対称性が現れることを確認した。 5.非対称な人工ピンを導入することにより、超伝導体に流れる電流の非対称性を得ることは原理的に可能であると考えられる。 6.今後は、非対称性を大きくするための非対称人工ピンの導入方法や形状、導入する材料について最適化を図る必要がある。
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