MgB_2超伝導線材はパウダー・イン・チューブ(PIT)法で作製するのが一般的であり、金属管に充填する粉の種類によって、ex-situ法とin-situ法とに分けられる。両手法とも充填粉の品質が臨界電流密度(J_c)特性に大きな影響を及ぼし、現時点では同程度の特性が得られているものの、実用レベルにはまだ低く、その改善には、線材内部の密度の向上MgB_2の微結晶化、ピン止め点の導入、結晶粒間結合の強化が有効である。線材内部でMgB_2を生成させるin-situ法では生成時のMgB_2コア層の密度低下が大きい。MgB_2粉を充填するex-situ法ではコア層密度の低下は小さく、本研究ではex-situ法での特性改善を図った。 先ず充填粉の精製を行った。透過電子顕微鏡による結晶粒の観察から、MgB_2粒子の周囲には絶縁体であるMgO層が付着している。このMgO層は超伝導電流パスの障害となるため、充填前にMgB_2粉を有機酸溶液に含浸処理してMgOを溶解除去した。この処理によって、結晶粒のサイズは数ミクロンから300nm以下となり、小さくなった。結晶粒の微細化はピン止め点として作用する結晶粒界の面積を増加する。また、処理した粉末を用いて線材作製を行い、加熱処理すると、MgB_2の硼素が一部炭素に置換された。炭素置換は上部臨界磁界(B_<c2>)の向上に繋がる。粒径の微細化はMgO溶解に関係しており、炭素置換は含浸処理によって粒子表面に吸着した有機溶媒によってもたらされるものと考えられる。これらによって、線材のJ_c値は、未処理粉を用いた場合と比べて4.2K、10Tで一桁向上した。 この手法は簡便で安価であり、線材の長尺化プロセスに適用可能である。また、ボールミル微細粉等、他の手法と併せて用いることにより、更なるJ_c特性の向上が期待できる。
|