本研究では、レーザーアブレーション法を用いて形成したシリコン微結晶膜からなるMOS構造トンネル冷陰極の開発と特性評価を行い、低電圧で駆動し、放射電流の均一性・安定性に優れた面放射型冷陰極の高輝度化のための指針を得ることを目的とする。 本年度は、以下の知見を得た。 1)上部Auゲート電極の膜厚を5-50nmの範囲で変化させて素子の製作を行い、電子放射特性の評価を行った。放射電子は、いずれの場合も、ゲート電圧6V程度の低電圧から観測された。この値は、Auゲート電極の仕事関数に相当する値である。ゲート膜厚を薄膜化するにつれて放射電流量、電子放射効率(トータル電流に対するエミッション電流の比)共に増大し、電子放射がゲート膜厚に敏感であることを確認した。これまでに放射電流4μA、効率4%を達成している。一方で、薄膜化に伴い、高電圧側で飽和する傾向にある。 2)ゲート膜厚5nmの素子からの放射電子のエネルギー分析を行った結果、FWHMが2-3eVと広い分散を持つこと、ゲート電圧に強く依存すること、ゲート電圧を増加するにつれてエネルギー分布は高エネルギー側にシフトしていくことが明らかとなった。放射電子にはゲート電極を透過したトンネル電子とナノホールからの電界放射電子が混在している可能性があるとの知見を得た。
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