本年度は、昨年度の成果を踏まえ、引き続き、パルスレーザアブレーション法を用いてシリコン微結晶膜からなるMOS構造面放射型トンネル冷陰極を製作し、電子放射特性の評価を行い、電子放射機構について検討を行った。 本年度は、以下の知見を得た。 1)蛍光体を用いてシリコン微結晶(nc-Si)膜厚数百nm程度の素子からの電子放射パターンを観測し、放射電子の指向性を評価した。その結果、放射電子の発散角は約4.5°(ゲート電圧20V時)であった。この値は、通常のゲート電極付き電界電子放射陰極の発散角約20〜30°に比べて十分小さく、面放射型冷陰極の高指向性の特長を示しているが、MOSトンネル陰極の発散角約2°と比較してやや大きく、電子放射エリアの表面形状の影響が示唆される。 2)H2、CO、O2ガスを4×10^<-4>Pa導入し、電子放射時の吸着・残留ガスの影響を調査した。その結果、COガスとO2ガスに対しては電子放射特性にほとんど変化は見られなかったが、H2ガスの場合、放射電子のエネルギー分布が高エネルギー側に約1eV程度シフトすると共に新たなピーク観測された。Au電極には無数のナノホールが確認されていることから、水素の吸着によりナノホール内のnc-Si表面の仕事関数が低下し、電界放射成分が増大したものと考えられる。
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