面放射型MOS構造トンネル冷陰極の高輝度、高効率化を目的として、ナノ結晶の形成・粒径制御が比較的容易なパルスレーザアブレーション法を用いて製作した極薄酸化膜被覆されたナノ結晶シリコンからなるMOS構造トンネル冷陰極を製作し、電子放射特性、電子放射にいたる伝導機構について検討した。上部Auゲート電極の仕事関数に相当する低電圧からの電子放射を観測した。放射電流量、電子放射効率は、共に、ゲート膜厚を薄膜化するにつれて増大し、電子放射がゲート膜厚に敏感であることを明らかにした。ゲート膜厚5nmの素子において、放射電流密度2.0mA/cm2、電子放射効率(放射電流!全電流)4%を達成し、ナノ構造の有効性を確認した。放射電子のエネルギー分析とゲート金属薄膜のSEM観察により、放射電子には、ゲート金属薄膜を透過したトンネル電子成分と薄膜内のナノホールを経由したnc-Siティップからの電界放射電子成分が混在していることを明らかにした。蛍光体を用いた電子放射パターン観測により放射電子の指向性を評価した結果、放射電子の発散角は約4.5°と見積もられ、通常のMOS構造トンネル陰極の発散角と比較してやや大きいものの、ゲート電極付き電界電子放射陰極の発散角(約20〜30D)に比べて十分小さく、面放射型冷陰極が放射電子の指向性に優れていることを確認した。
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