20世紀の後半携帯電話に代表される移動通信は飛躍的な進歩を遂げた。移動通信の進歩に伴って、提案されたのがセンサ・ネットワークと言われる新概念である。非常に多数のセンサー(センサ・ノード)を配置し、各センサーからの出力信号を主に移動通信と同様の手段により構築したネット・ワークを介して集約し、それ等のデータに基づき、家庭やオフィスの住環境の制御、ビルや市街単位での環境モニタ、大規模な地域単位での自然環境状態の観察や保護などを行うものである。 本研究は、センサ・ネットワークに適用可能な将来の燃料電池自動車用の水素や環境汚染等の微小なガス状物質をセンシングする新しい装置に関する。弾性表面波を用いるガス・センサーは幾つかの構成が提案され活発に研究されているが、用いる結晶基板(圧電結晶)に対しては制約があり、さらにセンサ・一構造、装置等にも多くの課題がある。本研究では、新しいセンサー構造を提案し、結晶に対する制約を取り除いた。センサ・ネットワーク用の無線媒体として、2.4GHz帯を用いたZigBeeの標準化が進んでいる。2.4GHz帯の周波数信号の分周と逓倍によりセンシング用の周波数信号を作り出すことで、センサ装置用回路の飛躍的な簡略化を提案した。更に、弾性表面波を励振するトランスジュ-サを工夫することで、基本周波数の波と3倍周波数の波の併用を可能にし、センサーとしてのダイナミック・レンジを大幅に拡大出来る可能性を示した。 弾性表面波は、圧電結晶基板中の3つの振動モードと1つの電気的なモードが複雑に結合することで成り立っている。これ等のモードを解析することは、弾性表面波を励振するトランスデューサを設計する上で重要な手段の一つである。振動場の理論的な扱いまでさかのぼり、高度な解析用計算機ソフトを開発した。本研究では、基本波と3倍波を効率良く励振し、かつ、入出力トランスデューサ間の位相関係まで含めて高い精度で規定する必要がある。現在、開発した解析ソフトを駆使して、このようなトランスデューサの設計を行なっている。設計結果に基づき、本学SMBCのMEMS用プロセス装置を利用して、具体的な試作を目指したプロセス検討にも着手した。今後、これら一連の設計、試作を行い、さらに、構築されたデータを基に実際にセンサ・ネットワークへの適用の可能性を研究して行く予定である。
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