将来の燃料電池自動車用の水素ガス漏洩等をセンシングする新しい弾性表面波ガス・センサーを提案した。従来の弾性表面波ガス・センサーは圧電結晶基板が水晶に限定されている。本研究では、自己温度補償を持つ新センサー構造の発案により結晶に対する制約を取り除いた。トランスジューサの工夫で、基本周波数と3倍周波数の波の励振を両立出来ることを示し、センサーとしてのダイナミック・レンジを大幅に拡大出来ることを示した。 平成20年度は、具体的には、18年度、19年度に開発したトランスデューサの設計ソフトを活用し、本研究の最も重要な部分である、基本波と3倍波を効率良く励振出来るトランスデューサを実際に設計した。試作は本学BERCのMEMS用プロセス装置を活用して行った。試作トランスデューサの評価結果、(1)従来の電極指幅とスペース幅が等しいトランスデューサでは、基本波の励振と3倍波の励振は両立しない。(2)複数の電極指幅の導入と、スペース幅と組み合わせることにより、基本波と3倍波の励振がほぼ等しい条件が存在することを示した。 また、試作トランスデューサを組み合わせ、センサーの基本形を実現した。これ等を用いた基礎実験では、基本周波数、3倍周波数共に温度の変動に対してセンサー出力の位相と基準座標用出力の位相は等しい変化をすることを確認した。これは、当初我々が予想した自己温度補償機能が実現出来ることを示している。今後は、更にセンサーの高性能化を計ると共に、実際に2.4-GHzのZigBeeを用いたセンサー・ネットワークに本センサーを導入することを想定し、周辺回路との共通化、基本周波数と3倍周波数を2.4GHzの分周から生成する点などの検討を行い、早期の実用化を目指す予定である。
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