超伝導デバイスとしてジョセフソン接合が提案されてから40年以上が過ぎ、電圧標準やSQUIDなどへその特長を発揮して実用化が進んでいるが、超伝導の特長を活かし切っているとは言えない状況である。超伝産象が低温環境でしか起きないことが超伝導技術の発展を阻害している大きな要因ではあるが、逆に低温環境を利用して新しい超伝導デバイスの応用分野、例えば秘匿通信への応用を切り開いていく。低温環境では熱雑音が小さく、カオス現象の発生やその制御、応用に有利な点を活かす研究開発が必要である。 本研究では超伝導カオスジェネレータとしてジョセフソン・テトロードを提案し、平成20年度においては、カオス同期が達成できることが明確になれば、秘匿通信への応用についても道が開けることから、ジョセフソン・テトロードのカオス同期及びカオス発振波形をディジタル信号処理することにより、疑似乱数の生成を試み、その品質について詳細に解析することも研究の目的とした。平成20年度の研究成果は以下の通りである。 1)本研究では1個の抵抗を用いて一方向に結合しているモデルを考えた。2個のジョセフソン・テトロードの内、片方をMaster、もう片方をSlaveと呼ぶこととした。結合定数0.0031のときのMasterとSlaveの発振波形と相関図からカオス同期の達成を確認した。カオス同期の達成は、リヤプノブ・スペクトルからも確認できた。結合定数によってカオス同期が達成できるか否かが決定されることを明らかにすることができた。 2)カオス発振波形をディジタル信号処理することによって疑似乱数を生成できるかについても検討した。3つの電圧波形の中で最もカオス的な波形を選び、サンプリング時間を1psとして、閾値電圧を変化させてディジタル乱数を生成し、0と1の出現頻度を調べた。乱数の品質の検証にはNIST(米国標準局)の評価システムが使われるが、この評価システムで最も重要なのが0と1の出現頻度であり、丁度50%ずつにならなければならない。本研究の結果から、規格化閾値電圧を-3.0よりもわずかに高いところに設定ですればNISTの評価システムに合格するような疑似乱数を生成できる見通しを得ることができた。
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