研究概要 |
二つの超伝導体に薄い絶縁層を挟んだ構造をした素子は,ジョセフソン素子と呼ばれる。この超伝導接合を流れるジョセフソン電流は,外部磁界によって変調されるが,私たちは,今まで超伝導接合の接合面に平行に,外部磁界を二方向から印加して超伝導電流の変調を行い,ジョセフソン接合の二次元磁界変調特性を測定してきた。外部磁界を二次元走査することにより,接合部を流れる超伝導電流の分布をより詳しく知ることができる。このジョセフソン素子は,超伝導をエレクトロニクスに応用する場合の唯一の基本デバイスであり,高感度の磁束計である超伝導量子干渉計や単一磁束量子回路と呼ばれる論理回路などに応用される。しかしながら,超伝導デバイスを常温から超伝導状態まで冷却する際に,周囲の環境ノイズなどの磁束が超伝導体にトラップされ,このトラップされた磁束が超伝導デバイスの特性に悪影響を及ぼすことが知られている。今回,超伝導体にトラップされた磁束がジョセフソン電流の大きさや外部磁界変調特性に影響を与えていることを明らかにするために,簡易型の振動試料型磁力計を作製し,平均的ではあるが,Nb超伝導薄膜にトラップされている磁束の観測を行った。試料を液体ヘリウム中に挿入し,超伝導薄膜の接合面に垂直に強い磁界を印加して,超伝導薄膜に強制的に磁束をトラップさせた。試料を固定している支持棒の端をモーターに接続し,印加した垂直磁界を取り除いた後にサーチコイルの近くで一定の周波数で磁束がトラップされている試料を振動させ,サーチコイルの誘導起電力を観測することによりNb超伝導薄膜にトラップされた磁束の観測を行った。1800A/m以下の垂直磁界を印加したときでは,サーチコイルの出力電圧は観測されず磁束トラップを確認できなかった。2400A/m以上の垂直磁界を印加したときでは,20μVの出力電圧が観測され磁束トラップが確認できた。この結果より2400A/m以上の垂直磁界を印加すると,超伝導薄膜に磁束が入り始め,垂直磁界を取り除いても磁束がトラップされたままであると考えられる。4800A/m以上の垂直磁界を印加したときも60μVの出力電圧が観測され磁束トラップが確認できた。ジョセフソン電流の垂直磁界依存性では,4800A/m以上の垂直磁界を印加した後ではジョセフソン電流の値が0となり,その後,垂直磁界を取り除いても電流が復活しなかったが,このサーチコイルの実験結果からも,磁束トラップによってジョセフソン電流が垂直磁界に対して履歴現象を示すことが確認できた。
|