研究概要 |
紫外光源は白色LEDの励起源、あるいは殺菌消毒、露光など応用範囲が広いが、有機ELではまだ実現されていない。本研究では、紫外領域に吸収波長の最大値をもつ高分子蛍光材料、Poly[methylmethacrylate-co-(7-(4-trifluoromethyl)coumarin acrylamide)](PCA)を用いて紫外線発光ダイオードの試作を試みた。PCAは有機ELとしては未だに用いられていない材料であるが、吸収波長ピークは紫外域にあることから紫外光源として有望である。 PCAのバンドギャップが不明であるため、窒素レーザ励起によるPCAのフォトルミネッセンスを測定した。その結果、発光スペクトルに390,510,680nmの3波長にピークを持つことが分かった。次に、電流注入による発光を観測するため、ITO基板上にスピンコート法によりPCA薄膜を形成し、その上に真空蒸着器によりアルミ(Al)の陰極電極を形成しダイオード特性を評価した。その結果、発光を得るに必要な電流量を確保することができず発光も観測されなかった。従って、ITO/PCA/Alの3層からなる簡易な素子構造は発光ダイオードとしては機能せず、キャリア注入層を付加した多層化による電子および正孔の注入効率の改善が必要であることが分かった。 陽極となるITOとPCAの間に正孔注入層となるPEDOT&PEG薄膜をスピンコート法で作製し、一方、陰極となるAlとPCAの間に電子注入層となるカルシウム(Ca)薄膜を真空蒸着したダイオードを作製した。測定の結果、電流注入により発光を観測することができた。しかしながら、発光強度は非常に弱く、キャリア注入の更なる改善が必要である。 上の素子構造を更に改善するため、PEDOT&PEGとPCAの間に高分子材料PVK薄膜をスピンコート法により作製した。これはPEDOT&PEGとPCAとのHOMOレベルの段差の中間にPVKによるHOMOレベルを配置することにより正孔注入効率を更に改善することが目的である。電流注入の結果、510nmにピークを持つ青白い発光が観測された。これはPCAの持つ二番目の発光準位へのキャリア注入効率が大幅に改善された結果である。 以上の結果から、広いバンドギャップを持つPCAを用いる有機発光ダイオードの特性改善には、発光層へのキャリア注入改善が不可欠であり、キャリア輸送の物理的メカニズムの解明が重要であることが分かった。今後は一番波長の短い発光準位へのキャリア注入を可能とするため、電子注入層の改善を検討する予定である。 本研究成果は、2007年3月の応用物理学会にて発表し(発表番号29p-P7-4)、国際会議MSS13(2007年7月、ジェノバ、イタリア)に投稿中である。
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