研究概要 |
近年,無線通信において高速大容量伝送を実現する手段として,複数の送受信アンテナを用いるMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)が注目されている.MIMOは,無線LANや携帯電話などに適用可能である.特に無線LANの使用環境では見通し(LOS : Line Of Sight)環境となることが多い.見通し環境では,直接波が存在するライスフェージング環境となる.直接波は送信機から受信機へ直接届く電波であり,各受信アンテナにおける各送信アンテナから到来する直接波の伝送距離はほぼ等しく,その振幅は一定で位相のみが変動する.各受信アンテナにおける直接波の位相差が近いとき,通信路の相関が高くなり信号検出が困難となる.例えば,各受信アンテナにおける各送信アンテナからの直接波の位相差がOradのとき,各受信アンテナでの送信信号の候補点が重なり合い,信号分離検出が最も困難となる.そのため,ライスフェージング環境ではこのような劣悪な環境における対策が必要である.本研究では,ライスフェージング環境における相対位相差時間シフト変調を用いたMIMOシステムを提案した,相対位相差時間シフト変調は,各送信アンテナに対する各時刻の送信信号に異なる位相回転を与え,送信アンテナ間の相対位相差を時間的に変化させる.送信アンテナ間で相対位相差を変化させることにより,各受信アンテナにおける直接波の位相差が擬似的に変化するので,伝送レートの損失および送信機でのチャネル状態情報(CSI)の利用なしに信号分離検出が容易となる.加えて,信号検出が容易なタイムスロットを活用するために,誤り訂正符号を用いる.もし,信号検出が容易なタイムスロットが存在すれば,受信機はビット間の相関を用いて,信号分離検出が容易なスロットを活用して全スロットの信号検出特性を改善することができる.計算機シミュレーションにより,提案MIMOシステムは,ライスフェージング環境における従来MIMOシステムと比較して優れたビット誤り率(BER)特性を達成することを確認した.
|