本研究の目的は補聴器ユーザー自身が自分の聴覚特性と環境音に応じて補聴器の周波数特性を自由自在に調整できるような音色可変・環境適応型"聞きやすい"ディジタル補聴器を実現することである。この場合、振幅特性が連続可変なディジタルフィルタ(振幅可変フィルタ)の最適設計を行う必要がある。本年度は以下の2つのアプローチで可変振幅フィルタの実現を目指して研究を進めてきた。 アプローチ1:可変非整数遅延(variable fractional-delay : VFD)フィルタを用いて可変振幅フィルタを構成する。この場合、VFDフィルタの最適設計と高速実現に関する研究が基礎となる。本年度では、任意次数(奇数次と偶数次)のLagrange型VFDフィルタの一般式を導出し、その高速実現を目指して係数対称性を証明した。結局、係数対称性を利用すれば50%の計算量削減を実現でき、高速フィルタリングが可能となる。 アプローチ2:アナログフィルタに関する研究が昔から盛んに行われてきたため、様々な研究成果の蓄積がある。もしアナログフィルタを様々な帯域幅をもつディジタルフィルタ(低域通過フィルタ、帯域通過フィルタ、高域通過フィルタ)に簡単に変換できれば、アナログフィルタの蓄積を有効にディジタルフィルタの設計に生かすことができ、容易に様々なディジタルフィルタを設計できる。本年度では、任意の高い次数のアナログフィルタを計算機によって自動的にディジタルフィルタへの変換を行う基礎研究として、一般化パスカル行列とその逆行列の導出と証明を行った。一定の成果が既に出たが、これから順次に発表する予定である。これからはアナログ遮断周波数が1である正規アナログフィルタを計算機によって自動的に様々な帯域幅をもつディジタルフィルタ(低域フィルタ、帯域フィルタ、高域フィルタ)への変換アルゴリズムを導出する予定である。
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