平成20年度の研究では、低次数でも比較的特性の優れた3種類の可変IIRディジタルフィルタ(可変低域通過ディジタルフィルタ(LPF)、可変帯域通過ディジタル(BPF)、可変高域通過ディジタルフィルタ(HPF)で構成される3チャンネル可変ディジタルフィルタバンク(variable filter-bank:VFB)を設計し、消費電力とコストパフォーマンスの悪さの要因になっている計算量を軽減し、かつ最適なfittingが可能なディジタル補聴器の設計法を開発した。 3種類の可変フィルタの設計の基本的な考え方はディジタル周波数変換に基づき、プロトタイプ低域通過ディジタルフィルタ(LPF)から通過域端周波数が異なる別のLPF、BPFとHPFへの変換を行うことである。このように、可変フィルタの通過域端周波数が分かれば、ディジタル周波数変換に基づき、3種類の可変フィルタを設計できる。難聴の原因が様々でオージオグラムのパターンも様々である。 与えられたオージオグラムに対して、最適なfittingを得るためには、3種類の可変フィルタの通過域端周波数とゲインを求める必要がある。VFBの振幅特性と与えられたオージオグラムの理想特性との最大絶対値誤差を最小化することによって、最適なパラメータを求める。これは非線形最適化問題でNelder-Meadシンプレックス法のアルゴリズムを用いて求めることができる。これらのパラメータが決まれば、3種類の可変フィルタを設計でき、3チャンネルVFBを構成できる。構成された3チャンネル可変フィルタバンク(VFB)を用いて低消費電力・高精度ディジタル補聴器の新しいfittingが可能となる。VFBの次数が非常に低いため、全体の計算量が従来の固定幅のフィルタバンクより遥かに少ない。一つの出力信号サンプルを得るため、11回の乗算と14回の加算だけで済む。また、様々なオージオグラム(難聴パターン)を用いて提案した3チャンネルVFBの有効性を実証した。
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