本研究では、水中音響データ通信の高速、高信頼化を目指し、変調方式、適応等化処理、フレーム同期処理およびタイミング同期処理について、新しいアルゴリズムの提案、検討、検証を行っている。 最初に変調方式について検討を行い、現在、水中音響通信で使われている最高速の変調方式である16QAM変調方式のコンピュータシミュレーションを行い、実装するアルゴリズム方式を決定した。シミュレーションはMATLABを使用した。 次に伝送路の状態を把握し、他船舶や海底からの反射(マルチパスルート)を抑えるアルゴリズムとして、筆者が以前から研究を進めている無線伝送路における適応等化アルゴリズムMulti Mode CMA(MMCMA)のアルゴリズムを水中音響通信用に最適化し、シミュレーション上で実現させた。伝送路のいくつかの伝送パターンに対して、マルチパス除去ができるかどうかの検証を行い、適応等化フィルタの前に適応等化位相器を付加することで、等化収束速度の向上を図った。このアルゴリズムの採用によって、通常の適応等化器の収束特性より収束性能の高い適応等化が実現できることを検証した。さらにこのアルゴリズムをDigital Signal Processorボードに実装し、動作検証を行った。 ここまでの研究で、同じ16QAM変復調であっても水中音響通信に特化した適応等化器を使うことで、データの信頼性の向上を図ることができた。 次に実装時の問題となるフレーム同期、タイミング同期に関して、特許申請した同期アルゴリズムのシミュレーション、実装および検証を行った。現時点では一般的なフレーム同期との比較検証で差が出ていないので、さらにアルゴリズムの改善を行う予定である。 本年度は、プログラム作成、動作検証などに大量の時間を要したため、対外的な発表、論文投稿に至ることができなかったこともあり、次年度以降に対外的な発表、論文投稿を予定している。
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