活性酸素は癌の発生に深く関与していると考えられているが、逆に選択的に癌細胞のみにフェホルバイトや、ヘマトポルフェリンなどの光化学治療用色素を取り込ませ、これをレーザー励起によって活性酸素を発生させ、癌細胞のみを酸化死滅させる治療方法(PDT)がある。これらにおいては励起一重項酸素の酸化力が有効に作用するのか、スーパーオキサイドが有効に作用するのかは未だに明らかになっていない。またエビ白班病ウイルス(WSSV)の光化学療薬として、ローズベンガル色素を養殖池に投入し、太陽光などで光励起し、WSSVの不活性効果を図る方法においても、有効な活性酸素種が特定されていない現状がある。そこで近赤外1270nm付近でpW程度の発光強度で微弱発光する励起一重項酸素酸素の発光スペクトルと、スーパーオキサイドによるESR反応を測定し、これらの作用基準をそれぞれのスペクトル強度測定を行うことにより、それぞれの発光強度を明らかにした。 初めにローズベンガル自体、光励起無しでもESR反応があることを明らかにした。次にローズベンガルの中心吸収波長550nm(半値幅約80nm)とほぼ同じ発光帯域で光る高輝度LED、5Wを照射しても、ESRのスペクトル強度には変化が無かった。一方、同じく高輝度LED、5Wの光励起によって発生する励起一重項酸素発光強度は、pW程度の発光強度に相当するスペクトル強度であった。このことから、WSSVに対する活性酸素の有効性は、励起一重項酸素が支配的であると考えられる。実際にローズベンガル色素を投与しただけでは、WSSVなどに対する効果は少なく、光励起を伴って初めて有効に作用することから、エビウイルスに対する活性酸素の有効な成分は励起一重項酸素が主な寄与物質であることを明らかにした。なお光励起無しの状態で生ずるローズベンガルのESRスペクトル強度は、ESR標準試料DPPH(ラジカル濃度97%)に対して4分の1程度であるが、ラジカルの発生量をオーダー的に見積もると、測定条件から推測すると濃度的にはDPPHの発生量とほぼ等しいと考えられる。そのためスーパーオキシドの濃度のみで、ウイルス等に対する有効性を判断することはできないことを明らかにした。またPDTに使用する光化学治療薬についても同様のことが考えられ、今後本装置でのこれらを明らかにする測定が期待される。
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