本年度の研究では、古典適応制御の限界を打破できる新しい適応制御の体系化を目指して、以下の研究成果を収めた。 1.まず、ISS (Input-to-State Stability)小ゲイン方法に基づいて、以下の優れた性質を有する新しい適応制御理論を提案できた。 (1)状態フィードバック、適応オブザーバの設計と適応則の設計が完全に分離される (2)全状態の大域的指数安定を保証でき、しかも収束速度を明確に設定することができる (3)多入力多出力システム向けの適応制御理論を実現している (4)最小位相条件や次数差の制約を受けない。 そのいずれをとっても古典適応制御で保証できないものである。 2.そして、提案する新適応制御の設計はある種の凸最適化問題に帰着して解くことができることも解明できた。これによって数値的に設計するツールを確立することができる。 3.さらに、産業応用上きわめて重要なモータ駆動システムに対して、本方法を応用し現場チューリングの要らないサーボ技術を開発している。このために、負荷と連結軸が可変の直流モータ駆動システムを製作し、制御実験を繰り返しているところである。現段階では、大幅に変化する負荷を駆動できることが実験的に確認できている。しかし、実用上の問題点も現れてきている。それは、観測雑音の影響を強く受け、入力電流が極めて振動的になっていることである。その原因は、ISS小ゲイン条件を満足させるために高い適応オブザーバゲインを使ったためである。今後改善策を模索する必要がある。 本研究で目指すモータ駆動系制御技術は類の見ない、革新的な制御技術であり、成功すれば産業に大きく貢献できるものである。
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