研究概要 |
本研究は小河川や農業用水路網における魚類生息場保全に向けて,環境改善の効果を事前に検討するために魚群行動予測モデルの構築とそれらの水路網における個体群の「ネットワーク=遺伝的交流」の実態について,分子生物学的手法の一つであるマイクロサテライトDNAによって解明することを目的とする.平成19年度は,室内実験による魚類の遊泳力,魚群行動の関係の把握,農業用水路網の既設魚道の改善,ドジョウ個体群間の遺伝的交流の実態解明に重点を置いた研究を実施した. 1.水理実験における魚類の遊泳ポテンシャルと魚群行動の把握:室内実験における在来魚類(オイカワ、イワナなど)の遊泳ポテンシャルや水流と関連した魚群行動をビデオ画像解析などにより定量的に把握した.魚群行動の動的特性を評価するために12指標を抽出し有効性を確認して,魚群行動の可視化ソフトの作成を行った.このツールにより,魚群の空間分布を視覚的に捉えることができ,水流と魚類避難場所の選択性等の評価が容易になることなどが示された. 2.既設魚道の改善:間伐材や仮設堰板の設置により水面勾配の緩和や流速分布を変化させて既設魚道の越流エネルギーを減衰させ,魚類遡上時の休息場として利用できるプール部などや移動経路の連続性を確保した.対象水域の流量や水位は常に変動しているため、水位計によるモニタリング、流量変動に対応可能な魚道構造形式の検討、魚類生息データによる生態系ネットワークの評価なども行った。 3.個体群間ネットワークの遺伝的交流の実態解明:河川・農村環境の魚類保全に向けて,落差等により河川から分断化されている支川および農業用水路のネットワークを対象に,一部のマイクロサテライトDNAが解読されている在来魚類(ドジョウ類)の遺伝的特性を検討した.圃場整備が進んだ管瀬川・揖斐川流域の不連続的な農業用水路網において、各水域におけるドジョウ個体群の多型を推定し、ヘテロ接合度による遺伝的多様性、その空間分布について考察した。サンプル数は少数であるが、8種類のプライマーを利用して各水域の多型を推定することができ、同水域内においても遺伝的差異が表れるなど、落差や水路形態などと遺伝的な多様性の評価が考察された。
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