研究概要 |
本研究は、小河川や農業用水路網における魚類生息場保全に向けて、環境改善の効果を事前に検討するために魚群行動予測モデルの構築とそれらの水路網における個体群の「ネットワーク=遺伝的交流」の実態について,分子生物学的手法の一つであるマイクロサテライトDNAによって解明することなどを目的とする.平成20年度は,引き続き既設魚道の改善,ドジョウ個体群間の遺伝的交流の実態解明、水中音響計測システムを用いた魚道内のエネルギー減衰や休憩場所の存在などの評価に重点を置いた研究を実施した. 1. 個体群間ネットワークの遺伝的交流の実態解明:河川・農村環境の魚類保全に向けて,落差等により河川から分断化されている支川および農業用水路のネットワークを対象に,一部のマイクロサテライトDNAが解読されている在来魚類(ドジョウ類およびタモロコ)の遺伝的特性を検討した.圃場整備が進んだ管瀬川・揖斐川流域の不連続的な農業用水路網において、各水域におけるドジョウ個体群の多型を推定し、ヘテロ接合度による遺伝的多様性、その空間分布について考察した。サンプル数は少数であるが、8種類のプライマーを利用して各水域の多型を推定することができ、同水域内においても遺伝的差異が表れるなど、落差や水路形態などと遺伝的な多様性の評価が考察された。 2. 水中音響計測システムを用いた魚道の評価:従来便宜的に用いられている散逸仕事率という単純な流れのエネルギー指標ではなく,騒音に満ちた魚道プール内の状況を,水中音響の空間的な広がり方と関連づけて,プール内のエネルギー減衰や休憩場所の存在などを総合的に評価する方法を検討した.具体的には,室内実験により,階段式魚道内の水中音を流量,プールの間隔ごとに,現地調査では魚道のタイプ別に測定して,音圧スペクトル解析結果などから,音圧レベル特性とプール内における散逸仕事率の関係を明らかにした.その結果,散逸仕事率が大きくなるにつれて魚道内の水中音の音圧レベルも増大する傾向が示され,1kHz以下の低周波数帯では,流量による音圧レベルの周波数依存性が強く,その絶対値も大きいことなどが示された.本水中音響システム(発生音+音圧分析)を用いることによって魚道や生息場の評価に応用が可能であることが示された.
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