研究概要 |
本研究では,水域に放出される化学物質について,水生生物を用いた生態毒性試験を実施し,化学物質の毒性データの集積を行うとともに,河川水や下水処理水といった実際の環境水を対象とした生態毒性試験系を構築するため,試料の前処理方法について基礎的検討を行った。 (1)水域に放出される化学物質の生態毒性データの集積 水域に放出される化学物質のうち,近年特に問題視されている医薬品類を対象として生態毒性試験を行った。対象とした水生生物としては,細菌類および藻類を用いた。試験の結果,医薬品類のなかでも,抗菌剤の水生生物に対する毒性は,解熱鎮痛剤,不整脈用剤および気管支拡張剤といった医薬品の毒性よりも強い傾向が見られた。また,医薬品の水生生物に対する毒性は,オクタノール水分配係数や分子量といった医薬品の物理化学的性質よりも,結合する標的部位の有無によるところが大きい可能性が示唆された。 (2)環境水(河川水,下水処理水)を対象とした生態毒性評価手法の検討 実際の環境水を対象とした生態毒性試験系の構築を目的として,固相抽出カートリッジを用いた試料の前処理方法について基礎的検討を行った。固相抽出カートリッジに試料を通水した後,メタノールおよびジクロロメタンを用いてカートリッジから捕集成分の溶出を行い,それぞれの分画について藻類生長阻害試験を行った。その結果,ジクロロメタン分画からは試料を50倍濃縮した場合においても毒性は検出されず,カートリッジに捕集された毒性物質の多くはメタノール画分に溶出されることが示された。また,下水処理水について固相抽出カートリッジを用いて前処理を行って藻類生長阻害試験を実施したところ,5〜10倍程度の濃縮を行うことにより藻類生長に対して毒性影響が現れることが示された。
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