構造物の損傷同定を効果的に行うための解析システムの構築を目指して研究を進めている。限られた観測データから精度の高い同定結果を得るためには、観測データからノイズの影響を出来るだけ少なくするようなフィルタが必要になる。 これまでの逆解析の中で、パラメトリック射影フィルタに注目して研究を推進している。このフィルタは、フィルタゲインの中に、逆解析で重要な役割を果たすティホノフの正則化パラメータと解釈されるパラメータを含んでいる。このフィルタによる構造損傷同定解析では、パラメータとして小さな値を経験的かつ試行錯誤的に設定し解析を進め、多くの数値計算結果を蓄積してきた。 本年度は主として、このパラメータの値を自動的に可変的に設定することが可能となるフィルタの開発を行い次のような成果を得た。 1.可変的パラメトリック射影フィルタ理論とそのフィルタリングアルゴリズムの構築 パラメトリック射影フィルタに含まれる正則化パラメータを、逆解析の第一段階で利用可能な初期データのみから可変的に更新する手法を導入した新しいパラメトリック射影フィルタ理論を構築し、それを構造損傷同定解析に適用するためのフィルタリングアルゴリズムを整備した。 2.可変的パラメトリック射影フィルタの同定問題への適用 新たに構築した可変的パラメトリック射影フィルタリングアルゴリズムの適用性を検証するために次のような構造物の具体的な同定問題に対して多くの成果を挙げた。 (1)フレーム構造物の損傷同定解析 5層フレームモデルに対し、層の剛性低下に関する損傷同定解析が固有振動数をヘルスモニタリングデータとして可能である事を示した。各フィルタリング過程でパラメータが可変的に選択され同定計算を安定化することが明らかにされた。 (2)円筒シェル構造物の同定解析 液体を含む円筒シェルの面外変位を計測データとして、この容器の剛性と内容液の水位を同定する事が可能となった。
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