研究概要 |
パラメトリック射影フィルタに含まれる正則化項に可変的手法を導入し,任意の初期値からフィルタリング過程を通して自律的に数値を得ることができる可変的パラメトリック射影フィルタによりフレーム構造物のシステム同定を試みた.システム同定は,固有振動数のみを観測データとして,対象とした3層フレーム構造物の各層全ての水平剛性を同定しようとするものである.これまでの損傷同定に比較して未知数は増え,不適切性が生ずるリスクは高くなるが,過去の情報に縛られることなく,現在の情報のみでシステムの状態を同定できる点に今後実用の可能性を期待している解法である.これまでの成果として,3層程度の未知数であるならば,各フィルタリングステップにおいて正則化項が極めて効果的に機能し,3つの水平剛性は安定的に精度よく同定可能であるが,その同定精度は初期値に大きく依存する.これらは,まず観測データを質点系の固有値問題に基づく数理モデルから作成するシミュレーション逆解析により検討され,可能な限り定量的に初期値と解の精度について考察を加えた.その結果,今年度では、目標値の上方もしくは下方の目標値に近い所に初期値を設定することにより精度のよい同定が可能であることを確認した.また,これらの初期値は設計図書を参考にすれば設定可能である旨の提案も同時に行った.一方,実験モード解析より得られた観測データを用いるときも,同定精度は先の場合に比べて劣るものの,初期値の設定手法としては妥当である旨の結論を得た.さらに,各層の初期値を同一に与えるのではなく,各層それぞれに異なった値を与えることを試みると,いっそう同定精度は向上することも確認した.このように,同定精度は初期値に大きく依存することが明らかになった.
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