研究概要 |
建物で起きる熱と水分と空気の連成移動を熱力学に準拠した非線形現象として表現し,環境性能評価ツールとして建物全体(空間および躯体)の温湿度変動を予測する数値シミュレーションソフト「THERB for HAM」を開発した。 また,恒温・恒湿性能を利用する高機能住宅の設計指針を得るため,札幌・東京・福岡を対象に室内温湿度および暖冷房負荷へ及ぼす壁体吸放湿の影響について検討した。さらに,室内湿度および期間潜熱負荷を目的変数,空調条件・建築仕様・気象条件などの各種要因を説明変数として重回帰分析を行い,それぞれの要因の感度ならびに効果的な室内湿度の調節方法について解析した。その結果,(1)仮想の水分容量を室空気に加算して壁体吸放湿の影響を近似する従来の簡易計算と,壁体吸放湿を考慮する詳細計算では,暖房・冷房いずれも期間全熱負荷に10%以上(期間潜熱負荷には30%以上)の誤差を生じる場合があり,暖房負荷については設定温湿度の高い条件,冷房負荷については設定温湿度の低い条件で誤差が大きいこと,(2)非空調時間の壁体への蓄積水分が空調時間の潜熱負荷に影響するため,詳細計算と簡易計算の誤差は終日空調より間欠空調において顕著となること,(3)暖房潜熱負荷に対して,「設定温度,設定湿度,空調時間,換気回数」は正の相関,「室内発湿量,内装表面透湿抵抗,外気絶対湿度」は負の相関を示し,特に設定温湿度と室内発湿量は影響の著しい要因であること,(4)冷房潜熱負荷に対して,「空調時間,換気回数,室内発熱量,室内発湿量,内装材水分容量,外気絶対湿度」は正の相関,「設定温度,設定湿度,内装表面透湿抵抗」は負の相関を示し,特に設定温湿度と外気絶対湿度は影響の著しい要因であること,(5)内装表面透湿抵抗と内装材水分容量はそれぞれ約8%,10%の寄与率で室内湿度へ影響すること,(6)室内湿度への影響要因を効率的に改善することで恒湿性を確保できること,などを明らかにした。
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