本研究は、イギリスで展開されている方法論に着目しながら、わが国の都市計画行政が目指す良好な景観の形成に向けた、実践的な運用体制や方法を提言するための基礎調査を行うことを目的としている。 具体的には、イギリスのCABE(Commission for Architecture and Built Environmentの略称、イギリスの国土交通省と文化科学省に当たる省庁によって設立された政府外郭団体)が実践する方法論について、次の3点に着目しながら基礎調査を行った。すなわち(1)地方自治体の関係職員に対して良好な開発計画を策定するための技術支援の方法、(2)開発計画の許可審査におけるデザイン審査の方法、(3)住民参加を促すための景観教育や啓蒙の方法、である。 (1)については、CABEの中央組織において政府の方針に則った基本方針を定めると同時に、各地の建築・都市計画の実務者から選定された者を、開発計画に対して助言を行う者としてCABEから派遣するシステムを構築していることが明らかとなった。このことによって、全国的な基本方針に沿いながらも、各地の状況に合わせた個別の対応を可能にしていると考えられる。 (2)については、デザイン審査の対象を、規模や機能の点で重要な計画、立地の点で重要な計画、規模・機能・立地以外の重要性を含む計画とし、実務に携わる専門家がデザイン審査員として計画ごとに議論する方式で審査を行い、開発計画のデザインの質を高めていることが確認された。 (3)については、特に学校における景観教育に力を入れ、政府の教育改革と連携しながらすすめていることがわかった。景観教育は人材育成を含む長期的な将来を見据えた取り組みであり、政府外郭団体として都市計画コンサルタントを行うCABEならではの活動であり、蓄積された知と技術を還元することにもなっている。
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