本研究は、戦前期地方において既に高密度かつ立体的な居住形態を生み出した端島を対象として、端島の高層高密度アパートメントが居住者にどのように住みこなされてきたのかといった「生活史的観点」と、共同的住環境運営やメンテナンスの変遷など「管理運営方式の観点」という二つの観点から、居住の実態を体験記述方法を用い再検証することにより、持続的な居住空間の構築方法への知見を得ることを第一の目的としている。 また、崩壊が進行する同島の近代化遺産としての活用施策について、さらに近代化産業遺産利活用の先進事例と照らし合わせながら、生活史の現地における展示公開方法など独自の検討を行うものである。 平成18年度は、史料分析、現地調査、参加型ワークショップの開催と断続的な体験記述採取調査を行った。史料分析からは、実測図と現況の不整合性の抽出を行った。既往の調査研究では実測データ採取のみに主眼が置かれ、さらに調査は閉山以降行われたため、居住空間形式の変遷や同時期の集合住宅、他地域の炭坑住宅との関連性については明らかになっていなかったが、住戸ユニットタイプの年代別の類型化・体系化を行った。 また、生活史採取のための旧居住者へのヒアリングからは、これまでは負の記憶として記述されることが多かったことに対して、環境の共同制御などについて、住宅計画上の知見が得られることを指摘した。 次年度は、NPO及び同窓会組織とさらに密な連携を取りながらネットワークを広げ、協力旧居住者に対してワークショップといった参加型の調査を開催しながら、生活史の採取を継続することとする。
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