研究課題
基盤研究(C)
本研究は、今日の華僑文化圏における道教廟の地域生活での役割の総体的な把握を通して、近代都市計画における欧米都市の広場を超えるものとして位置づけようとするものである。この結果は近代都市計画論の再検討と合わせ、より具体的には近年の中心市街地の空洞化対策への示唆を得ることへとつながる。欧米都市の広場との大きな違い、すなわち広場よりも一層地域生活での密着度が高い「安心感」は宗教施設に起因していると考えられるが、あわせて、日常的福祉活動を展開していることの影響も大きいと考え、平成18年度台北市と廟のルーツといわれる中国福建省の調査を、そして、これに独自の発展を遂げていると考えられるシンガポール、マレーシア、さらに福建省に近接する台湾金門島の事例を加えた調査を19年度に行い、5つの地域間での地域福祉力に関する相互の関係と歴史的な変遷の考察を行った。廟はおおむね祭祀圏を同一とする地縁・血縁関係を基盤とした共同体の場、すなわち1、地域の宗教施設であると同時に、2、地域社会の労働や生産、子育て、教育、他民族からの防衛など地域住民の生存や生活を支える相互扶助的な関係の場(地域福祉の拠点)として運営され、今日でも基本的にはこれらの機能を残していることが明らかとなった。3、廟の管理組織は行政の末端組織としての役割も果たしながら、支配権力とは別個の自治組織として独立して存在していた。今日でも異民族の中の華僑社会であるマレーシアにおいては、相互扶助の場として支配権力とは別個の自治組織の機能がより明確であることが確認された。しかし、近代化の進んだシンガポールにおいては、相互扶助の場としての廟の役割は政府の福祉政策などに代替され、廟は地縁・血縁関係を基盤とした祭祀圏を同一とする宗教施設の役割に単純化され、さらに地域との日常的な関係性も希薄化していた。地域福祉力の強い廟では欧米の広場以上の役割を果たしていることが確認されたが、都市化とともに近代化のもとで廟の機能の縮小化がすすんでいる。
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