本研究は、東京下町の河岸における公共空間としての特質を掴み、都市におけるオープンスペースの創出とその維持に関する知見を得ることを目的としたものである。本年度は河岸の変遷について、地域特性、機能、土地所有、土地利用、法制度の観点から調査・分析を行った。 江戸期に荷揚げ・防災・情報伝達の機能を有した「オープンスペース」であった河岸には、明治以降の産業構造の変化により倉庫・居宅地が増加した。河岸の機能は都心部から本所・深川方面へ移動し、川との直接的関係を失った都心の河岸は川に背を向けたオープンスペースのない空間に変貌した。 「公有地」としての河岸は1980年代まで維持されてきた。幕府の公有であった河岸は官有河岸地として明治政府に引き継がれた後、市区改正の財源の充当を目的に東京市に下付され、基本財産河岸地及び国有河岸地となった。河岸の激減は美濃部都政時の財政難に起因する。河岸が売却可能な普通財産へ変更されたことで、私有化と細分化に進むこととなった。一方で今なお10分の1強の河岸地が残存することを明らかにした。これらは主に官有河岸地の防災・舟運の要所、基本財産河岸地で公共用地や物揚場として河川との関係を維持してきた箇所である。 東京の河岸を都市のオープンスペースとして再構築し、社会共通財産とするためには、残存する公有の河岸を核として私有地を含む新たな公共性の概念の構築が必要であり、本研究の今後の課題である。
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