伝統的庭園の存在は、近代化の過程のなかで、新興勢力の実力者たちのあいだで、富と権力の象徴であった。その意味で、伝統的庭園は過去に属するものではなく、近代という時代に属するものなのである。 本研究においては、典型的な近代和風庭園および新興富裕層に属するパトロンたちを、詳細に亘って分析している。すなわちそれらは、庭師である小川治兵衛、パトロンとしての三渓・原富太郎、渋沢栄一である。 本研究では、上記の構図に従って近代都市環境形成期における重要な庭園が選択され、分析されている。すなわち小川治兵衛の主要作品群、原富太郎による横浜の三渓園、そして渋沢栄一の営んだ東京飛鳥山本邸の庭園などが深く考究されることとなった。 その結果示されるのは、以下のような近代和風庭園の本質である。すなわち、それらは近代化の時代の時代精神の表現なのである。近代化と伝統的表現は、決して背反するものではなく、むしろひとつのコインの両面なのである。 本研究の構成は下記である。 1.序論日本庭園 2.数寄者とパトロン・棟梁と建築家 3.庭師小川治兵衛とその時代序論 4.米国庭園倶楽部の来日と小川治兵衛の庭園 5.三渓園と原富太郎 6.近代日本庭園の名作としての三渓園 7.瞹依村荘庭園の歴史的位置づけ
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