平成19年度は、モロッコのカサブランカとラバト、チュニジアのチュニスの3都市を中心に現地調査を行った。また、スペインの3都市、マドリッドとバルセロナとビルバオについてもこれまでのフランスを中心としたヨーロッパにおける調査の補足調査を行った。 平成19年度の課題は、イスラム圏の都市にもアール・デコが普及していることを確認することと、その造形がイスラム圏特有の特色を示しているかどうかを見ることであった。やはり、モロッコとチュニジアの3都市にも、アール・デコの建築がかなり存在する。それは、両国が1920-30年代の大戦間期にフランスの保護領下にあったことが、直接の理由であろうが、モロッコの2都市のほうがチュニスよりもアール・デコが多い。特筆すべきはカサブランカで、この都市の中心部はさながらアール・デコの伝統的建造物保存地区の観を呈する。それらの建築の設計に関わったのはほとんどエコール・デ・ボザールの出身者であり、1912年のモロッコのフランス保護領化以降、今日までカサブランカではボザール出身の建築家が活動している。保護領化当初は、クラシックを基本とし、それにイスラムの伝統的な意匠を組み合わせたものが多かったが、1920年代半ばからであろうか、アール・デコに変わっていく。そして、アール・デコの造形の中にイスラムの伝統的な造形が巧みに組み込まれていくのである。そうしたイスラムの造形を取り込んだアール・デコの建物が、この都市の主たる構成要素となっている。 なお、スペインにはアール・デコの建物がそれほど多くはない。1920-30年代のスペインは、それほど建設活動が盛んでなかったためと思われる。特にマドリッドはアール・デコが少ない。
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