平成20年度は、カナダのモントリオール、ケベック、トロント、オタワの現地調査を行った。このどの都市にもアール・デコの建築がかなり見られた。フランス語圏のケベック州にあるモントリオールとケベックを、トロントとオタワに比較すると、アール・デコの建築は必ずしもケベック州に多いわけではない。大規模なアール・デコの建物はむしろトロントに多い。これは、1920-30年代にその都市がどの程度活発な経済活動と建設活動を行っていたかを物語るものであろう。モントリオールのアール・デコを設計した建築家の経歴を調査したが、彼らの多くが米国出身であったり、米国で教育を受けた人であることがわかった。カナダの建築家にもフランスに留学した人が多いが、カナダのアール・デコは彼らによって導入されたのではなく、米国経由で導入された傾向が強い。カエデやオークや松などカナダの自然を取り入れた装飾を積極的に用いているのも彼らである。モントリオールにはArt Deco Societyがあり、活発な活動を実施している。その会長であり、"Northern Deco: Art Deco Architecture in Montreal"という著書もあるSandra Cohen-Rose氏に会ってモントリオールのアール・デコ建築の現存状況を聞いた。モントリオールの近代建築家を代表すると見られるErnest Cormier (1885-1980)の作品、モントリオール大学と自邸を調査した。また、彼の代表作であるオタワの最高裁判所を調査したが、最高裁判所はアール・デコというよりも歴史的・伝統的フランス調である。Cormierは長期間フランスに留学しているが、むしろアール・デコではなく、フランスの古典的な伝統を受け継いでいるものと思われる。
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