イタリアを扱った本年度は『中世後期から近世に至る掘立棟持柱構造からの展開過程に関する形態史的研究』(2001-3年度、基盤C2、代表・土本)で2001年12月に先行実施した調査地域に含まれていなかった。木造の棟持柱構造は、その建築遺構が、ドイツ、スイス、オーストリアといったアルプス以北、あるいは東ヨーロッパに遺る。他方、アルプスより南の地域では、早い時期に木造から組積造に移行したため、木造架構の遺構が少ない。しかし、イタリアでは、組積造へ移行するものの、小屋組に木造を遺す事例が多く、逆にすべてを組積造とする建造物はかなりの記念碑である。今回、まず、イタリア北東部に位置するValcamonica渓谷に向かい、岩壁線画が群として世界遺産として保護されているCapodiponteを調査した。棟持柱構造を示す数々の岩壁線画は目をみはるものがある。岩壁線画のほか、建築遺構を把握するため、Milano、Padova、Vicenza、Veneziaといった北部のほか、Firenze、Luccaといった中部の建築遺構を実地調査した。小屋組を木造とする建築遺構は、架構が棟持柱構造ではなく、その小屋組が棟束をもつ扠首組であった。この小屋組はトラス構造である。しかし、二等辺三角形のトラスの中心に垂れるKing-post(棟束)は、下辺の水平材(梁)に載らずにそれに接しているだけで、下辺の水平材に対して下方にも上方にも力を伝え得る。このKing-post(棟束)は、『中世後期から近世に至る掘立棟持柱構造からの展開過程に関する形態史的研究』にて日本の木造建築に即して論証したように、棟持柱の下部が切り取られた結果の姿である可能性が高い。この仮説が正しければ、イタリアの木造建築の小屋組に見られるKing-post(棟束)は、日本の木造建築と同様に、棟持柱を祖形している。棟持柱構造を示す数々の岩壁線画と併せて、このKing-post(棟束)を分析するならば、なお一層、この仮説が有力である。今後、考古学的資料と石造の建築建築を含めた広い視野にて、棟持柱構造の原形と変容を考察する必要がある。
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