研究概要 |
最終年度である平成21年(2009)度は、中央ヨーロッパの棟持柱構造と日本の棟持柱構造との比較を行った。そもそも、中央ヨーロッパを対象とした本研究は、平成13~15年(2001-2003)度科学研究費補助金(基盤研究C(2))研究『中世後期から近世に至る掘立棟持柱構造からの展開過程に関する形態史的研究』(研究代表者・土本俊和)を承けたものであった。日本の棟持柱構造にうち、本研究が収集した事例では、長野県飯山市域と山梨県笛吹川流域が充実していたので、南ドイツ、北西スイス、北イタリアの事例と、これらを比較した。他方、日本の棟持柱構造については、太古から現代に至る通時的展開過程の模式図をすでに作成していたので、この模式図を、中央ヨーロッパを対象に提出された模式図と比較した。スイスから提出された模式図として、ツエッペリウスの論考とヴァイスと論考が優れていた(Adelhart Zeppelius : Vormittelalterliche Zimmerungstechnik in Milleleuropa. In Rheinosches Jahrbuch fur Volkskunde, 5(7), 7-52, 1954, 7ff./Richard Weiss : Hauser und Landschaften der Schweiz. Eugen Rentosch Verlag, Swiss, 1959.)また、先史からの展開を考察する上で、中央ヨーロッパの線描壁画rock art(たとえばCapo diponte)や考古学的発掘資料を取り上げ、日本の事例と比較した。棟持柱構造を指標として中央ヨーロッパと日本を比較した結果、数々の類似点がうかびあがった。このことは、中央ヨーロッパから中央アジアの乾燥地帯を介して東アジアにいたるユーラシア大陸のなかで、かつて、棟持柱構造を伴う建築技術の伝播と伝承がみられたことを指し示している。
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