本研究は、ライデン国立民族学博物館およびシーボルトハウスに所蔵されている日本の町家模型を通して、近世の町家に関する従来の理解を、西欧人の目という新たな視点を通して見直し、再構築することを目的とする。 平成18年度は、4棟の町家模型について調査を実施した。 町家模型(1)は「名主の住まい」、「醤油屋」、「番人小屋」とされ、連続して建っている。「番人小屋」は無かったが、取り付いていた形跡が確認できた。町家模型(2)は「酒屋」、「呉服屋」「日雇人の家」とされる。町家模型(1)と(2)は、異なる商売・生業の町家の集合体であるが、実際の連続した町並を切り取ったものではなく、それぞれの職種や規模の代表的な町家をつなぎ合わせて、日本の町家の多様なタイプを紹介しようとしたと考えられる。また、町家模型(2)の「日雇人の家」とされた部分は、特徴から小規模な呉服屋と考えられる。 町家模型(3)は「屋敷」や「商家」と説明されてきたが、正式な書院や数寄屋の部屋があることから接客用の建物、例えば「料亭」と考えるのが妥当である。町家模型(4)はその特徴から商家と考えられ、後世の改造の痕跡が確認されることから、復原的に再検討する必要がある。 町家模型(1)、(2)、(3)はシーボルト『日本』の挿絵と酷似し、挿絵は模型を基に西欧人の画家によって描かれたと考えられる。また、町家模型(1)と(3)は、『シーボルトと日本展』図録(日本・オランダ修交380年記念展図録1988年)では江戸の町家とされるが、平面形式や細部(棟・けらば・虫籠窓・通り土間・雨戸の溝)の特徴は、出島があった長崎の町家により近い。 また、細部をみると、近世の大工技術(継手仕口・指鴨居など)を正確に反映しており、模型の製作者は日本人の大工と考えられる。
|