重要な武家住宅遺構の調査として、高知県・岡山県・大阪府・兵庫県・長野県・山梨県・静岡県・愛知県・佐賀県・福岡県等の中世の上層武家住宅遺構と目される遺跡や博物館を調査し、その多くについては、発掘調査報告書の複写等の入手や、遺跡の周辺環境の確認、それらの分析を行っている。そのほか文献を通じて収集した遺構情報も含めて、来年度にデータベースとして取りまとめ、公開または発表をする予定である。その作業用にPCを購入し、臨時要員を採用してデータの整理や入力を行わせている。 文献調査では、『吾妻鏡』等の文献史料の解読をすすめ、そこで得られた史料をもとに、現在、鎌倉後期の武家住宅について試論を製作中である。その内容については、来年度、大規模なシンポジウム等で発表する予定であり、その準備会にも参加している。 また、鎌倉末期から南北朝期にかけての最重要な、鎌倉の上層武家住宅遺構である今小路御成遺跡について、その復原CGの試作を行った。体験型CGとするため、そうした技術と経験をもつ業者に委託して制作したが、まだ動作状況や復元考証が十分ではないので、これについても来年度以降に順次改良していくつもりである。 総論としては、中世の武家住宅は公家住宅に対して、寝殿造りではなく、出居を中心とした新たな住宅様式であり、それが中世後期の主殿へとつながり、書院造へと発展すると思われる。そして、出居の名称から推定されるように掘立柱の状態での武家住宅は、のちの上層民家の系列上にあり、茅葺で土座を内包する住宅ではなかったかと思われる。そうした武家住宅に礎石建の住宅様式が導入される起因として現在注目しているのが御成りであり、お成り御殿をこれからの考察の中心にしたいと考えている。
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