本研究は20世紀初頭のドイツにおける工芸学校(Kunstgewerbeschule)の教育改革をめぐって、主導的な立場で一連の改革を推進した商務省州産業局(Landesgewerbeamt)の活動と施策に焦点を当て、その実態を解明しようと試みるものである。また、この部局のなかで中心的な役割を果たした建築家ヘルマン・ムテジウスに着目し、その工芸および建築に対する理念が学校教育という場でどのように展開されたのか、という点を検証することを目的としている。 平成18年度は州産業局の関連資料に主題を限定して調査を行ったが、平成19年度はドイツにおける工芸学校の成立やその発展経緯、広がりなどの点に調査範囲を広げ、おもに下記の2テーマに関連して現地調査を実施した。 (1)イギリスの工芸学校教育に対するヘルマン・ムテジウスの報告の分析 (2)ドイツの工芸学校の成立と発展、その広がりについての検証 調査は平成19年9月17日〜25日および平成20年1月27日〜2月5日の2回にわたり、ドイツ・ベルリンのドイツ工作連盟資料館に収蔵されている関連資料をおもな対象とした。 この過程で、平成18年度より継続して行ってきた調査によって得られた知見をもとに発表した「日本、イギリス、そしてドイツへの帰還-ヘルマン・ムテジウスの「バウクンスト」をめぐって」と題した論文が『日独百年の建築・都市計画における相互交流Dreams of the Other-彼岸の夢:桂、バウハウス、ブルーノ・タウトから新しいエコロジーへ』(神戸大学21世紀COEプログラム発行、2008年)のシンポジウム報告書に掲載された。 また、共同研究「近代工芸運動の総合的国際比較研究」(平成16年度〜18年度科学研究費補助金基盤研究(B)/研究代表者:藤田治彦)に研究協力者として参画し、シンポジウム「ドイツ語圏の近代工芸運動」(2006年6月10日開催、於大阪大学中之島センター)にて発表を行ったが、その成果は『近代工芸運動とデザイン』(デザイン史フォーラム編)として刊行される予定であり、今年度の調査で得られた知見を反映させて、本研究の最終成果として発表することを企図している。
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