研究概要 |
平成20年度は,実験によりGPゾーン形成の事実が確認されているAl-Cu,Cu-Be,Al-Ag,Al-Mg2元系を対象に、第一原理計算とクラスター展開法を用いて準安定規則構造や固溶体の準安定自由エネルギーを計算しほぼ計画が完了した.さらにそれらの結果を用いながら,ジュラルミンをはじめとするAl基合金の基本系であるAl-Cu-Mg-Si-Zn5元系の熱力学的解析をおこない,その平衡状態図を計算により求めた.この計算結果は実験値とよい一致を示していた,さらに,今年度に得られた熱力学パラメータからクラスターの相互作用エネルギーを求め,各合金系のシミュレーションによる微細組織の時間変化について研究を進め,析出のTTT曲線の計算,それに及ぼす合金元素の影響の検討も行った.その結果,Al-2mol%Cu合金にMg,Si,Znを添加した場合,MgとSiはAl-Cu合金に見られる整合スピノーダル曲線の臨界温度を低下させ,Znは逆に上昇することが明らかになった.また,TTT曲線の計算からAl-2mol%Cu合金ではスピノーダル分解の開始温度は約123℃であることがわかった.この変態の開始時間は10^6秒オーダーであり,報告されているGPゾーンの開始時間よりもかなり長時間であった.これは低温におけるAl中のCuの拡散速度が通常は大変小さいことに原因がある.そこで焼き入れ時に導入される過剰凍結空孔を媒介にした拡散係数の報告値を用いて再度スピノーダル分解の開始時間を計算すると,350秒程度まで短縮されることが明らかになった.このことからAl合金におけるGPゾーンの生成は,母相におけるスピノーダル分解の存在と,空孔を媒介とした添加元素の高速拡散が本質的な要因であると結論された.
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