研究概要 |
本研究では実用化が期待されていながらも、超伝導体にとって最も基本的で重要な特性である臨界電流密度Jc(電気抵抗ゼロで流すことができる電流密度の上限値)を支配する主たる要因であるピン止め機構に関して未解明の点が多く残る金属問化合物MgB_2超伝導体について、ナノ構造を制御した試料を作製し、特性と微細構造の相関からピン止め機構を明らかにすることを目的に研究を行った. 本年度は,超高真空中で電子ビーム共蒸着法と同軸型真空アーク蒸着法を併用して,ニホウ素化マグネシウム(MgB_2)をシリコン単結晶基板上に作製し,その中に0.2nm厚さのニッケル金属極薄層もしくは5nm厚さのホウ素層を導入した試料を作製し,その超伝導特性(臨界温度:Tc,臨界電流密度Jc)を調べた. MgB_2/Ni多層膜およびMgB_2/B多層膜の何れの場合においても,磁場中のJcは,磁場を挿入したNiもしくはB層に平行に印加した場合のJc(平行)の方が磁場を挿入膜に垂直に印加した場合のJc(垂直)よりも数倍以上高い値を示した.4.2K,12TにおけるJc(平行)は10^5A/cm^2を大幅に上回っており,現状世界トップの値である.また,挿入したNi層に平行に磁場を印加した場合,超伝導体試料内部に侵入した量子化磁束線の間隔が挿入したNi層の間隔に一致した時に最も強い良いピン止め力が発現していることを確認した.以上の結果から,強磁性金属体の極薄層や超伝導コヒーレンス長の2倍の厚さのB層が非常に有効なピン止め点として働いていることが分かった.
|