研究課題
基盤研究(C)
構造生物学の大きな目標の一つはすべてタンパク質の構造を決定することである。しかしながら、X線構造解析ができるタンパク質の種類は限られている。それは、すべてのタンパク質が完全性の高い大きな結晶を得ることが出来ないからである。さらに、この完全性の評価はマクロなX線回折強度の半値幅で評価されていたのである。しかしながら、この半値幅の増減の原理、すなわちミクロな機構、いわゆるモザイク構造は未だに不明確である。この機構を解明するために、タンパク質結晶中の格子欠陥をX線トポグラフ法によって観察することは、世界の多くの研究者の目標であった。このように、本研究の平成18年度の最大の成果はタンパク質結晶のモデル結晶であるリゾチウム結晶中の転位を放射光単色X線トポグラフ法によって、鮮明に観察することに成功したことである。われわれは10年前から放射光X線トポグラフ法によってリゾチウム結晶中の転位の観察を行ってきた。これまでの研究は放射光白色X線トポグラフ法によって行われてきた。この方法の最大の欠点は白色X線であるので、ひとつのラウエスポットに高次の反射が重なり像の分解能を劣化させることである。このため、単色X線トポグラフ法が望まれていた。しかしながら、単色X線トポグラフ法は回折強度が著しく落ちること、また単一のラウエスポットの位置を特定することが難しく困難な状況にあった。われわれは平成18年度の本補助金で購入したフラットパネルセンサーの能力が近年、著しく向上したことを受け、これを位置の特定に用いることにした。その結果、極めて短時間にかつ簡単に、明瞭な転位像を世界で初めて観察することに成功した。その結果、従来の白色X線では観察できなかったループ状の転位や幅広い転位像が実は比較的細い線状であることなど新たな知見を得ることができた。また、転位像が従来の無機結晶や有機結晶で得られていたそれと同じくらいの分解能を持つことが分かった。また、リゾチウム結晶は結晶成長条件、すなわち、成長温度、PH、沈殿材、溶液濃度によって、正方晶、斜方晶、単斜晶など多形をもつ。さらに、成長法もバッチ法、2液界面法、濃度勾配法などがある。今年度は従来、正方晶は2液界面法では完全性の高い大きな結晶ができなかったが、成長条件を調べることにより大きく、かつ完全性の高い結晶を得ることができるようになった。このように、平成19年度以降、正方晶、斜方晶、単斜晶リゾチウム結晶の放射光単色X線トポグラフによって転位構造を確定し、タンパク質結晶のモザイク構造を解明する道と正方晶、斜方晶、単斜晶の結晶成長の機構を明らかにする道が開けた。
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Phys. Status Solidi (印刷中)
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