グラファイトの層間に新規ナノスペースを創製することを目的として、まずはセシウムやルビジウムをインターカレーションした化合物(CsC24、 RbC24)を調製し、そのナノスペースにエチレン、ブタジエンを吸収させた。得られた三元系化合物を室温で放置してエチレンやブタジエンを層間内で重合させた後、酸素や水蒸気などで処理してアルカリ金属だけを選択的に除去して、最終的にナノスペースを有するグラファイト-オリゴマー複合体とすることが目標である。 エチレンを吸収・重合させた三元系化合物(CsC24(C2H4)x)を酸素と反応させた場合、生成物は77Kで水素を吸収せず、分子吸収に有効なナノスペースの生成はみられなかった。同様にして水蒸気や液体アンモニアとの反応を実施したが、結果的には酸素処理と同様にナノスペース生成は確認できなかった。より反応性の大きい臭素で処理するとCsは完全に除去できることが確認された。しかしこの場合には臭素が生成物中に残留してしまい、目的とするグラファイト-オリゴマー複合体は得られなかった。 ブタジエンをRbC24に接触・吸収させて三元系化合物を合成した。室温では表面にブタジエン重合物と思われる高分子物質が析出してしまうことから、-21℃で吸収させたところ試料の端面にのみインターカレーションした。この三元系化合物は空気中で非常に安定で、端面の層間内で生成したブタジエン重合物が酸素や水蒸気との反応を阻止しているものと考えられた。電気抵抗率はRbC24の値とほとんど同じで、軽量高導電材料や熱電材料としての利用が考えられる。 以上の結果からナノスペースを有するグラファイト-オリゴマー複合体の創製には至っていないが空気中で安定な黒鉛層間化合物を開発する方法が見出された。
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