研究概要 |
TiNi合金にCuイオンを注入し,注入条件と改質効果の関連を検討した.イオン注入は粒子加速器を用い,注入時のTiNi合金の温度を-150℃〜+150℃の範囲で制御し,Cu^<2+>を1.5MeVで10^<15>〜10^<17>cm^<-2>のドーズ量で注入した.事前のシミュレーションによって,表面から1600nmまでイオンが注入されること,また注入量の最大値は表面から1300nm程度の位置にあることがわかった.イオン注入実験で得られた試料は透過電子顕微鏡(TEM)及びX線回折装置で観察した.室温以上で注入した場合には,表面から1500nm程度まではアモルファスもしくは超微結晶,これより深い領域はマルテンサイト晶のTEM明視野像が観察され,両領域から得た制限視野電子回折図形にもそれを示す反射が得られた.またX線回折プロファイルもブロードになっており,TEM観察結果の妥当性が確認できた.一方-150℃で注入した場合には,アモルファスもしくは超微結晶層の形成がTEM像及びX線回折プロファイルに認められなかった.すなわち,イオン注入による改質層の形成,すなわち,格子欠陥導入量は注入条件を適宜選択することで制御できることが明白となった.これと並行して既設の多元素同時スパッタリング装置の改造も行い,成膜とイオン注入を同時に実現できるようにした.改造した装置の基本性能(到達真空度,成膜速度,面内の膜厚分布など)の確認及びTiNi合金薄膜の試験的な合成を行い,次年度に本格的に開始する成膜実験の基礎データを得ることができた.
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